近年、「断続的断食」、別名「時間制限摂食」という言葉を耳にする機会が増えていますね。しかし、このプロセスが実際にどのように機能し、私たちの健康と体重にどのような影響を与えるのかを完全に理解している人は少ないかもしれません。スタンフォード大学のアンドリュー・ヒューバーマン教授は、このテーマについて深く掘り下げています。このブログ記事では、時間制限摂食が体重減少、特に体脂肪減少にどのように役立つか、そしてその背後にある科学的メカニズムについて、ポッドキャストからの情報に基づいてご紹介します。
参考:
時間制限摂食とは?
ほとんどの人が睡眠中に食事をしないため、誰もがある程度の時間制限摂食を行っています。しかし、ここで話すのは、特定の時間に限定して食事をするスケジュールのことです。これは、単に食べない期間を設けるだけでなく、いつ食べるか、何を食べるかが私たちの身体にどのような「状態」を作り出すか、ということに重点を置いています。
体重減少の基本原則:カロリー収支
体重減少に関しては、基本的な真実があります。それは、「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」というものです。スタンフォード大学のクリス・ガードナー教授による画期的な研究(JAMA 2018)では、健康的な低脂肪食と健康的な低炭水化物食の間で体重変化に有意な差がないことが示されました。これは、体重減少が主な目標である場合、摂取する食品の種類よりも摂取カロリーの総量が重要であることを示唆しています。
しかし、ヒューバーマン教授は、この「カロリー燃焼」の側面には運動量、基礎代謝率、ホルモン(甲状腺ホルモン、インスリン、成長ホルモン、性ステロイドホルモンなど)など、多くの要因が影響すると強調しています。
「いつ食べるか」が「何を食べるか」と同じくらい重要
サッチン・パンダ教授(ソーク研究所)による画期的なマウス研究(Cell Metabolism 2012)は、時間制限摂食の重要性を劇的に示しました。この研究では、マウスに同じ量の高脂肪食を与えたにもかかわらず、特定の8時間の摂食ウィンドウ内でのみ食事を許されたマウスは、体重を維持または減少させ、健康状態も改善しました。一方、24時間自由に高脂肪食を食べられたマウスは、肥満になり病気になりました。
この驚くべき結果は、カロリー摂取量を減らさなくても、食事のタイミングを制限することで代謝疾患を予防できることを示しました。この発見は、その後、ヒトでも当てはまることが確認されています。
体脂肪減少のメカニズム
時間制限摂食は、単に体重を減らすだけでなく、体脂肪の減少を促進する特定の生理学的条件を身体に設定します。
- 細胞の修復とクリーンアップ(オートファジー): 食事をしない期間、私たちの体はMTOR(細胞成長に関わるタンパク質)の活動を抑制し、代わりにAMPKやサーチュインなどの細胞修復・クリーンアップ経路を活性化します。これにより、死んだ細胞や損傷した細胞が除去され(オートファジー)、細胞が修復される「断食状態」にバイアスがかかります。
- 脂肪代謝の促進: 長期間(60日以上)にわたって時間制限摂食を続けると、身体のエネルギー代謝に変化が生じ、脂肪分解を促進する「肝リパーゼ(hepatic lipase)」が増加し、脂肪分解を抑制する「CIDEC」が減少することが示されています。これは、脂肪燃焼のアクセルを踏み、ブレーキを外すようなものであり、カロリー制限下での体重減少の大部分が体脂肪に由来することを保証する、科学的に最も支持された方法であると考えられます。
理想的な摂食ウィンドウの設定
時間制限摂食を効果的に行うためのいくつかの重要な原則があります。
- 「8時間摂食ウィンドウ」を目標に: 多くの研究で、8時間の摂食ウィンドウが、体脂肪減少、炎症抑制、肝臓の健康など、多くの健康指標において非常に有益であることが示されています。
- 短すぎる摂食ウィンドウの注意点: 4~6時間といった非常に短い摂食ウィンドウは、インスリン感受性の向上などの健康効果をもたらしますが、食べ過ぎにつながり、体重増加を引き起こす可能性さえあります。
- 1日1食(OMAD): 1日1食のスケジュールは体重維持または減少につながる傾向がありますが、ほとんどの人にとって長期的な維持が難しく、適切な研究も少ないため、特定の状況でのみ推奨されます。
- 16時間断食:この動画では紹介はありませんでしたが、私が減量に最も効果を感じたのはこれです。朝食を食べずに前日の夕食と昼食の間を16時間空けていたのですが、2か月で約20キロの減量に成功しました。
- 摂食ウィンドウの正確な設定: ほとんどの人は、実際に思っているよりも長い時間食事をしている傾向があります。そのため、もし10時間摂食ウィンドウを目指すなら、8〜9時間に設定することを推奨されています。
- 睡眠前後の断食期間:
- 起床後1時間以内は食事をしない。
- 就寝前2〜3時間は、いかなる食べ物や液体カロリーも摂取しない。睡眠関連の断食は、肝臓、腸、脳など、全身の細胞修復プロセスにとって特に重要です。
- 摂食ウィンドウの規則性: 摂食ウィンドウの長さだけでなく、毎日同じ時間帯に食事をすることが非常に重要です。週末に摂食ウィンドウをずらすと、体が「時差ぼけ」状態になり、時間制限摂食の多くの健康効果が打ち消される可能性があります。
- 理想的な時間帯: 睡眠ベースの断食を最大限に活用し、社会生活との両立を図るには、午前10時から午後6時、または正午から午後8時が現実的かつ効果的な摂食ウィンドウとして推奨されています。
断食期間を乗り切るためのツール
断食期間中も快適に過ごし、目標を達成するためのヒントをいくつかご紹介します。
- 軽い運動後の血糖値クリアリング: 食後に20〜30分程度の軽い散歩をすることで、血糖値が下がり、体が早く断食状態に移行するのを助けます。
- 高強度インターバルトレーニング (HIIT): 午後や夕方にHIITを行うと、血糖値が下がり、断食状態への移行を早めることができます。
- 塩分補給: 断食中のふらつき、だるさ、集中力の低下は、血糖値の低下だけでなく、電解質の不足が原因である場合があります。少量の塩(ヒマラヤ岩塩や海塩が理想的)を水に溶かして飲むことで、血中の電解質バランスを安定させ、これらの不快感を軽減し、食欲を抑える効果が期待できます。
塩分補給は私も朝起きた時に水に溶かして飲んでいますが、お昼まで強烈な空腹に悩むことはほぼないです。
- 水分補給: 特にカフェインを摂取する場合、利尿作用により体から水分とナトリウムが排出されるため、十分な水分と塩分の補給が重要です。
- グルコース処理剤(注意が必要): ベルベリンやメトホルミンといった化合物は、血糖値を劇的に下げることで断食状態を模倣しますが、低血糖を引き起こすリスクがあるため、使用には非常に注意し、医師と相談することが不可欠です。シナモンやレモン・ライムジュースにも穏やかな血糖降下作用があります。
- 人工甘味料: 人工甘味料や植物ベースの非糖質甘味料(ステビアなど)が断食を破るかについては、データが分かれています。血糖値に与える影響は最小限であると考えられていますが、人によっては食欲を刺激する場合があるため、個人の感覚に基づいて判断することが必要です。
個人の状況に合わせた調整
時間制限摂食は非常に効果的ですが、すべての人に万能というわけではありません。
- 筋肉維持・増強: 筋肉の維持や増強を重視する人は、午前中にタンパク質を摂取することが有益であると示唆されています。この場合、摂食ウィンドウを午後の遅い時間帯にずらすと、筋肉への利益が少なくなる可能性があります。
- ホルモンバランスと生殖機能: 高いストレス下にある人や、ホルモンバランス、特に生殖機能(テストステロンやエストロゲンなど)を最適化したいと考えている女性は、摂食ウィンドウを8時間より短くしすぎない方が良いでしょう。
- 段階的な移行: 時間制限摂食を始める際は、**1〜2週間かけて摂食ウィンドウを徐々に短縮する(1日1時間程度)**ことで、体が適応しやすくなり、過度な空腹感やホルモンの乱れを防ぐことができます。
まとめ
「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」が私たちの健康と体重に極めて重要であることが、科学的に明らかにされています。時間制限摂食は、体脂肪減少、肝臓の健康、細胞修復など、多くの面でプラスの効果をもたらします。8時間の摂食ウィンドウを目標に、毎日同じ時間帯に食事を取り、睡眠前後の断食期間を確保し、断食期間中の対策を講じることで、自分にとって最適な食事スケジュールを見つけることができるでしょう。
ご自身の身体と対話しながら、これらの科学的知見を日常生活に取り入れてみてください。
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