皆さん、こんにちは!日々の健康を追求する上で、食事のタイミングや内容に注目が集まる中、「断続的断食(Intermittent Fasting)」という言葉を耳にすることも増えてきたのではないでしょうか。今回は、Andrew Huberman氏のポッドキャストでの議論を元に、この断続的断食について、そのメリットや潜在的なデメリット、そして効果を最大限に引き出すための食の選び方について深く掘り下げていきます。
参考:
断続的断食の科学:メリットとデメリット、そしてその最大限の活用法
1.断続的断食とは何か?
断続的断食とは、食事を摂る時間帯を限定し、それ以外の時間を断食期間とする食事パターンを指します。ソースには具体的な「16時間断食」のような時間枠の直接的な言及はないものの、アンドリュー・ヒューバーマン博士自身が「準断続的断食(pseudo intermittent fasting)」を実践していると語っています。彼の食事パターンは、午前11時から正午の間に最初の食事を摂り、午後8時頃に最後の食事を摂るというもので、これは「短い食事時間枠(shorter eating window)」や「長い断食(longer fasting)」という概念に合致します 。このパターンは、日中の大部分を断食状態に保ち、消化器系を休ませることを目的としています。
2.断続的断食がもたらす健康上のメリット
断続的断食が注目される最大の理由の一つは、その多岐にわたる健康効果にあります。特に、ドクター・ロバート・ラスティグは、「肝臓に脂肪がある患者にとって正しい選択」であると強調しています [j]。彼によると、断続的断食は「肝臓が既に蓄積した脂肪を燃焼させる機会を与える」ために非常に有効であるとされています 。肝臓に蓄積された脂肪は、主にアルコールや加工食品に含まれる糖分、特に果糖の過剰摂取によって引き起こされることが知られており 、断食期間を設けることで、肝臓がこれらの脂肪を効率的に処理し、デトックスする機会を得られるのです。
また、アンドリュー・ヒューバーマン博士は、適切に実践された断続的断食が、腸の内壁と腸内細菌叢(gut microbiome)を、断食をしていない場合よりも優れたレベルで補充できる可能性があると示唆しています [j]。これは、断食期間中に腸がリセットされ、その後の適切な食事によって健康的な腸内環境が再構築されることを意味します。このメリットは、私たちの消化器系の健康、さらには全身の代謝機能において非常に重要ですし、全身の炎症レベルを低下させる可能性も示唆しています [j]。
3.断続的断食の潜在的なデメリットと、それを克服するための戦略
しかし、断食時間を長くすることには、潜在的なデメリットも存在します。ヒューバーマン博士は、食事をしない時間が長くなることで、「腸の内壁を消費してしまう可能性」や、「腸内細菌叢が枯渇する可能性」を懸念点として挙げています。私たちの腸内には、免疫機能や代謝に深く関わる100兆もの細菌が生息しており、これらは私たちが摂取する食物から栄養を得ています。断食によってこれらの細菌への食物供給が長期間途絶えると、腸内細菌が私たちの腸壁を覆う粘液層(mucin layer)をエサとして利用し始める可能性があり、これが腸のバリア機能が低下する「リーキーガット(leaky gut)」を引き起こし、最終的には全身性の炎症につながる恐れがあるとラスティグ博士は説明しています。
この懸念に対して、ヒューバーマン博士は重要な対策を提示しています。それは、断食明けの食事の質を極めて重視することです。具体的には、「十分な食物繊維と高品質な低糖発酵食品を摂取すれば」、腸の内壁と腸内細菌叢が、断食していない場合よりも優れたレベルで補充されると述べています。つまり、断食のメリットを享受しつつデメリットを回避するためには、「何を食べるか」が極めて重要な鍵となるのです。
4.断食の効果を最大化する「高品質な低糖発酵食品」と「食物繊維」
では、断食明けの食事や普段の食事で積極的に摂るべき食品とは具体的にどのようなものでしょうか。
- 高品質な低糖発酵食品: ソースでは、腸内環境の改善に寄与する例として、キムチや生のザワークラウト(Live sauerkraut)が挙げられています。これらの食品は、「生きた菌(ライブカルチャー)」を豊富に含んでおり、腸内細菌が食物繊維を分解して生成する「短鎖脂肪酸」という有益な代謝産物(ポストバイオティクス)を直接供給するか、その生成を促進する役割を果たします 。
- 特にヨーグルトについては、注意が必要です。市販されている多くのヨーグルトは、酸味を打ち消すために多量の糖分が加えられていることが多く、また、製品によっては生きた菌が含まれていない場合もあります。したがって、「ライブカルチャーを含むヨーグルト」や、製造元が信頼できる「職人技のヨーグルト(Artisan yogurt)」を選ぶことが、その恩恵を享受するために重要であると強調されています。
- 食物繊維: 食物繊維は、腸内細菌がエサとする「プレバイオティクス」の主要な源であり、腸内環境を健康に保つ上で「王国の鍵(key to the kingdom)」とも称されるほどの重要性を持っています 。ラスティグ博士は、アーモンドに含まれる食物繊維を例に挙げ、食物繊維が消化管の内側でゲルを形成し、糖分や脂肪の過剰な吸収を妨げることで、残りのカロリーがさらに下流の腸内細菌に届き、短鎖脂肪酸に変換されるメカニズムを説明しています 。これらの短鎖脂肪酸は、抗炎症作用や抗アルツハイマー作用など、多くの保護効果をもたらすことが知られています 。
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があり、両方をバランス良く摂取することが重要です。水溶性食物繊維は、腸内でゲルを形成し、血糖値の急激な上昇を抑える一方、不溶性食物繊維は便のかさを増やし、腸の動きを活発にします 。多くの加工食品に添加されているのは水溶性食物繊維のみであるため、ホールフードから両方の食物繊維を摂取することが望ましいとされています。
5.断続的断食の効果を阻害する「超加工食品」と「果糖」
断続的断食を実践する上で、何を避けるべきかを知ることも同じくらい重要です。ラスティグ博士は、超加工食品(Ultra processed food, Nova class 4)が、現代の慢性的な代謝性疾患の主な原因であると強く警鐘を鳴らしています。アメリカの食料品店で販売されている商品の73%が、意図的に添加された糖分を含んでおり、これらの食品は「中毒性がある」ため、消費者がさらに多くの商品を求めてしまうように設計されていると指摘しています。
特に問題視されるのが果糖(fructose)です。
- ラスティグ博士は、果糖が脊椎動物の生命維持に必須の生化学反応を必要としない「退化器官的(vestigal)」な分子であり、人間の体には全く機能がないと断言しています。
- 果糖は、肝臓で直接代謝され、脂肪生成(lipogenesis)を促進する主要な基質となります。これにより、肝臓に脂肪が蓄積し、脂肪肝やインスリン抵抗性の原因となります。さらに、果糖はミトコンドリアの正常な機能に必要な3つの酵素(AMPキナーゼ、アシルトランスフェラーゼ、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1)を阻害し、細胞のエネルギー生成効率を低下させることで、代謝性疾患のリスクを高めます。
- 果糖はまた、腸のバリア機能に不可欠なタイトジャンクションタンパク質を損傷させ、「リーキーガット」を引き起こす主要な原因となります 。これにより、腸内の有害物質が血流に侵入し、全身性の炎症反応を引き起こし、C反応性タンパク質(CRP)などの炎症マーカーの上昇に繋がります 。現在、アメリカ人の93%が慢性的な炎症を抱えているとされており、その多くがリーキーガットに起因している可能性が示唆されています。
- さらに驚くべきことに、果糖は脳の報酬系である側坐核(nucleus accumbens)を活性化させ、コカイン、ヘロイン、ニコチン、アルコールと同様に「中毒性がある」とラスティグ博士は説明しています 。これは、果糖がドーパミン受容体をダウンレギュレーションさせ、より強い刺激を求める「耐性」と、摂取しないと不調を感じる「依存」を生み出すメカニズムによるものです 。
ただし、フルーツに含まれる果糖は、豊富な食物繊維と結合しているため、その吸収が緩やかになり、腸内細菌に利用されるため、悪影響は小さいとされています。つまり、果糖そのものが悪なのではなく、食物繊維と切り離された形で、加工食品を通じて大量に摂取されることが問題なのです [j]。
6.インスリン反応の管理と代謝の健康
断続的断食の効果を理解する上で、インスリンの役割は不可欠です。インスリンは単に血糖値を下げるホルモンではなく、「エネルギー貯蔵ホルモン」として機能します。血中の過剰な糖分(特にグルコース)が存在すると、膵臓からインスリンが分泌され、この余分なエネルギーを脂肪細胞に送り込み、中性脂肪として貯蔵します。ドクター・ラスティグは、「インスリン値を下げれば、エネルギーが脂肪に回されることがなくなり、体重を減らすことができる」と明言しています。インスリンが低い状態では、脂肪細胞内のホルモン感受性リパーゼが活性化され、貯蔵された中性脂肪が遊離脂肪酸とグリセロールに分解され、エネルギーとして利用される「脂肪分解(lipolysis)」が促進されます。
インスリン値を上昇させる主要な要因は、精製された炭水化物と糖分の摂取です。これらの食品を控えることでインスリンの過剰な分泌を抑え、体が脂肪を燃焼しやすい状態に保たれます。
さらに、高インスリン状態はレプチン抵抗性(leptin resistanceを引き起こす可能性があります。レプチンは脂肪細胞から分泌され、脳に満腹感を伝えるホルモンですが、インスリンが高いとレプチンシグナルが脳の視床下部でブロックされ、脳が「飢餓状態」であると誤認します。その結果、食欲が増進し、体を動かそうとする意欲が低下するという悪循環に陥り、これが「暴食と怠惰」という行動の生化学的根拠となります。この悪循環を断ち切るためには、まずインスリン値を下げることに集中することが最も効果的であるとされています。
7.まとめと実践への具体的なヒント
断続的断食は、適切に実施された場合、肝臓の健康促進、体重管理、そして全体的な代謝の改善に寄与する強力なツールとなり得ます。しかし、その効果を最大限に引き出し、潜在的なデメリットを回避するためには、以下の原則を厳守することが不可欠です。
- 超加工食品(Nova class 4)を徹底的に避ける: 食料品店の外周にある、加工度が低いホールフード(野菜、果物、肉、魚、卵、未加工の乳製品など)を意識的に選びましょう 。
- 糖分、特に添加糖を排除する: 食品表示を確認し、「添加糖(added sugars)」の量が1食あたり4g(小さじ1杯)を超えない製品を選ぶことが推奨されます 。食品業界は262もの異なる糖の名称を使用しているため、ラベルの「添加糖」の項目に注目することが最も効果的です。
- 食物繊維と高品質な低糖発酵食品を豊富に摂る: 断食明けの食事には、腸内細菌叢を育むプレバイオティクスとしての食物繊維が豊富な野菜、果物、全粒穀物、そしてポストバイオティクスや生きた菌を含むキムチ、生のザワークラウト、信頼できる生きた菌入りヨーグルトを積極的に取り入れましょう。
- インスリン反応を最小限に抑える食事を心がける: 精製された炭水化物や糖分を大幅に減らし、良質な脂肪、タンパク質、そして食物繊維を多く含む食品を優先することで、インスリンの急激な上昇を抑え、体が脂肪を効率的に燃焼できる状態を維持します。
断続的断食は単なる食事の「タイミング」の問題ではなく、「何を食べるか」という「質」が極めて重要であるということが、今回の議論から明らかになりました。私たちの体は、私たちが与えるものに正直に反応します。これらの科学的根拠に基づいた情報を活用し、ご自身の健康目標に合わせた賢明な食の選択をすることが、より充実した健康的な生活へと繋がるでしょう。常に自身の体の声に耳を傾け、必要であれば、食事療法や断食の実践について医療専門家と相談しながら進めることを強くお勧めします。
コメント